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Prologue sequence



嵩田 始





ただの偵察訓練のはずだった。

クラリスが統率するアルファ第13小隊は、偵察任務が中心の小隊だ。
データ収集のためのバイパーIIと、護衛役としてのテムジン機がそれぞれ3体ずつ、全部で6機という構成で小隊は作られている。偵察という任務の性格から、帰還率は特に重要視されるが、クラリスの小隊はアルファ部隊でも特にトップクラスの高率の帰還率を保持していた。
他の偵察小隊の構成と比較して、クラリスの小隊はバイパーII機が1機多く投入されているため帰還率が低くなる危険性を含んでいるのだが、より正確なデータの収集を行うことを彼女の小隊は重視していた。そのおかげで彼女の小隊が持ち帰るデータは、非常に信頼性が高いものと本部では常に評価されていた。
その上、クラリスが搭乗するバイパーIIの敵破壊率も大変高く、もともと帰還率も高いこの小隊は、通常は前線での偵察任務だけを受け持っていた。しかし、帰還率が高くとも、事故率がゼロというわけにはいかない。
前回行なったやや危険度の高い任務によって一人の隊員が負傷してしまった。そのため、小隊に欠員が発生し、補充されたのはまだ訓練校を卒業したばかりの新兵だった。
機械の部品の交換とは訳が違う。クラリスは今までの功績を盾にして、後方での訓練を要請した。補充された新兵が、他の小隊の隊員との連携が習熟できるまではと。
そのおかげでアルファ第13小隊はひさびさに前線以外ですごすのんびりした日々であった。
バーチャロイドパイロット養成所(VRPS)を卒業したばかりの、テムジンに搭乗することになったサイオンは、クラリスが考えていたよりもカンどころが鋭い少年だった。
他の隊員たちとの連携訓練もすぐに慣れ、これならば多少経験不足であっても以前の小隊と同じように前線で活躍できるようになるだろうと、彼の動きをモニターで確認しながらクラリスは考えていた。
そして、習熟訓練の最終段階としてDN社の月面第4基地周辺から遺跡付近までの偵察訓練を行なっていた。
単純な偵察訓練。
それはある一定の位置に配置されているポイントを通過しつつ、データの採集をするだけのもの。
そして、すでに採集され設定されているデータと、訓練によって採集されたデータとの比較をし、どれだけ正確な採集できているのかを考査するものだった。
基地でも「犬のお散歩」と、称されているたぐいの訓練だった。
順調に行程は進み、あとは基地へ帰還してデータの提出をするだけ。小隊の隊員たちは軽く冗談を言いあうなどくつろいだ状態だった。小隊の隊長であるクラリスとても、前線にいるときほど気をはりつめていたわけではない。
一瞬、モニターに「WARNING」の文字が赤く表示された。
短く圧迫的な警告音の後、クラリスの搭乗空間内のすべてのモニターがホワイトノイズにつつまれた。

不思議な空間だった。
ホワイトノイズが治まると、モニターにはいいまで見たことのない空間が映し出されていた。レーダーは、小隊の全員がこの空間に存在していることを表示している。
モニターに映し出されている周囲の様子は、隊員たちの誰もが見たことのない空間だった。
空間の中央部と思われる場所の中空に、細長い八面体の水色に輝くクリスタルがうかび、鳥を模したような文様が淡い緑色の光を放ちながら周囲を取り囲んでいた。床にあたる部分は、クリスタルを中心とした同心円上に円が何重にも描かれ、空間の全体が脈打つように明暗を繰りかえしていた。
モニターに表示されているデータは、センサーが正常に働いているようにクラリスには見えたが、座標軸の表示だけは通常と違っていた。
通常ならば現在位置の表示はX、Y、Zからなる3D座標軸数字表示であるはずなのに、3つの数字表示にはすべて「SEACRETBASE」とだけ表示されていた。
淡く輝く緑かがった水色の光を柔らかく放ちながらクリスタルがゆっくり回転していた。その向こうに、音もなく巨大な影が拡大した。
黒とオレンジの配色を身にまとった巨大なVR。
肩にあたると思われる場所には赤く明滅する目が輝いている。

『シンクレア。少尉!あれは?』
隊員たちからクラリスのもとへ質問が飛ぶ。
「不明!適合データなし。各自警戒と攻撃準備。新手の訓練だといいけれ……っ?!」

目の前に出現したVRのデータを完全に収集、解析する間もなく、唐突に戦闘は開始された。
DN社の重戦闘VRのライデンから放たれるものよりも、やや細く短いレーザーが10方向に放たれる。正体不明のVRに対して近い位置にいた、テムジンとバイパーIIの2機がそれぞれ被弾し、バイパーIIにいたってはシールド減衰の警告音まで鳴り響きはじめた。

「各自散開!不明機に対し攻撃を開始!」

クラリスが隊員たちに伝えた瞬間、VRからミサイルが発射された。空中で一瞬止まったかと思うと、4方向に分裂しそれぞれがホーミングをかけてきた。
まだダメージのなかったテムジン2機が、ミサイルを避けきれず被弾してしまった。
テムジン機はバイパーIIよりも装甲が厚いというのに、すでに機体保護シールドゲージ残量が今の一撃だけで、半分を切ってしまっている。
その事実をモニターで確認しクラリスは凄味を感じた。
恐るべき攻撃力。
DN社でここまで破壊力の高い武器やVRはまだ開発されていないはずだった。
そして、DN社に追随できるVR開発技術を保有している企業国家は他にはないはず。
DN社の機体でないとすれば、一体……
クラリスは丁寧に相手VRからの攻撃をかわしながら、VRの出自について考えていた。
相手VRからは、間断なく容赦ない攻撃が続けられている。
バズーカによってバイパーIIの1機が、10WAYレーザーによってテムジンとバイパーIIが1機ずつ、ホーミングミサイルによってテムジンのもう1機が強制的に沈黙させられていった。
最初の攻撃から、10も呼吸していない間のことだ。
いままでいろんな危地を抜けて来た仲間が、こうも簡単にやられてしまうとは。
この空間に君臨するあの巨大なVR以外、いまでは、最初に攻撃を受けた新人の
サイオンが搭乗しているテムジン機と、クラリスのバイパーIIしか活動している機体はいなかった。

「強い」

クラリスは一人つぶやいた。
ただの2撃で自分たちのVRを沈黙させる、そんな強大な力を持つ機体など存在しなかったはずだ。
少なくとも今までは……になったが。
クラリスは常にVRに対し遠距離を保ち、バルカンを丁寧に当てていった。クラリス自体は接近戦に自信があったが、あのVRにビームソードが有効なのか不明であるのと、うかつに近距離レンジに入ったところで、至近距離からのレーザー攻撃をまぬがれない。
攻撃をかわしていくたび、戦場で強い敵に出会った時のような快感を、クラリスは感じていた。
突然クラリスのモニターに、警告音とともにサイオンの機体のシールドが減衰していることが表示された。
いまだギリギリで機体が保たれているものの、確実に次の一撃で乗員もろともVRが破壊されるのは明白だった。クラリスは決断せざるをえない状態になってしまっていた。
……どのみちこの空間にとどまるにしても、あのVRを沈黙させなくてはいけない。

「S.L.C.をかける」

ずいぶんとあのVRに被弾させているはずだった。
ライデンクラスの装甲のVRかける攻撃量の、およそ3倍程度は少なくとも確実に
ダメージを与えているはずだ。このままでいれば、確実に全滅する。
どうせ死ぬかもしれないなら全力で立ち向かう。
クラリスは、めったに使うことのないS.L.C.を使うことでひとつのカケにでることにした。
『危険です!』
すぐさまサイオンから返答が来た。
普段であれば上官に反抗したと注意を受けるところだ。
彼のような若くて優秀な人材を失わないですめばと、クラリスは思った。
彼が優秀なのはまだあのVRと戦っている事実だけでも実証できる。
「行くわ」
確率は少ないが、あのVRを沈黙させることができるかもしれない。
各武器のエネルギーゲージが100%であることをクラリスは確認した。
ホーミングミサイルを避けながらクラリスのバイパーIIは空中にジャンプした。
機体はVRの方に自動的に向き直り、正面のサイトが相手を中心に捕らえる。
クラリスはレバーを前に倒し、すべてのトリガーを同時に押した。
同時に黒いVRが、やや上方に向けてレーザーを発射したのがモニターに写った。
「ダメ、か?」
バイパーIIはその瞬間白い光に包まれ、巨大VRに向かって飛翔した。
レーザーをすり抜け、衝撃をクラリスが感じた瞬間、さらに眩しい光が搭乗空間内にあふれだし、モニターとセンサー類の全てが沈黙した。
「……っ!」
さらに激しい衝撃がクラリスを揺さぶる。だが、その衝撃は唐突に終了した。
「……?」
すべての機器が停止しており、クラリスには自分がいる場所があのVRのいる空間であるのかないのか、把握できなかった。通信機器も雑音すら発さないため、一緒にいたサイオンの状態も確認できない。

「……とりあえず、生きてる……?」

周囲は完全に静寂に包まれていた。
あの赤い目をもつVRと対峙した時には、かすかに音楽が聞こえていたような気がクラリスにはしていた。

今は、聞こえない。

衝撃音も、何ひとつとしてクラリスには聞こえなかった。
通常空間であれば、各機体に搭載されているVコンバーターから発信される、クリスタルの固有信号が追尾され救助されることになるであろう。訓練に出撃して、ある程度の帰投時間をすぎれば、探索が開始される。
クラリスも何度か救助をする側になったことはあったが、このようなケースは一度もなかった。これが新手の訓練であればと、クラリスは思うしかなかった。

クラリスのバイパーIIは、月第4基地近くの上空を漂っているところを回収された。
クラリスの機体には戦闘データが無事残っており、戦闘時間は86.72秒。
同チーム6機体のうち、5体は行方不明であり、4体は完全破壊されているであろうという記録であった。

クラリスからの再度捜索の請求に、DN社上層部は何の反応も見せなかった。



嵩田 始 (了) 2000.03010252

MAIL TO : 嵩田 始


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