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Seacret Place



嵩田 始





暗闇に光る。
赤い光。
あの夢だ。クラリスは直感的にそう思った。
闇の中で、肩の部分に大きく描かれた二つの目が赤く光る。巨大なVR(バーチャロイド)が、自分の前に立ちはだかり、その姿を見るたびにクラリスの背中には悪寒が走る。
クラリスが数週間前に出会った、見たこともないVRの姿。
絶対的な恐怖と共に、何度もくりかえされる夢。
その夢を見る度ごとに、クラリスは赤い目のVRに、何度となく徹底的に破壊されてしまうのだ。
強大な力をもつ攻撃。
夢の中で攻撃を必死によけつつ、ていねいにバルカンを叩き込んでいくのに、黒とオレンジに塗装された、赤い目のVRは倒れもしない。クラリスの愛機バイパーIIの全武器を、武器エネルギーの減少警告音が出続けるくらいに激しく叩き込んでいるというのにだ。
夢の中では、むしろ攻撃は激しくなるばかりだった。VRが動く速度も、アファームドが地上をダッシュで走っているくらい速く感じる。
『次は、アイツはどれでくる?』
バズーカ。
10方向に放たれるレーザー。
空中で一度静止してから分割するミサイル。
一発でも相手の攻撃をまともに食らえば、装甲を犠牲にしているバイパーIIのことだ、死に限りなく近づくことになる。
クラリス自身、この夢を見る度に、夢であることを自覚しているというのに、恐怖の感覚から逃れられないでいた。……実際は生還したというのにだ。
クラリスはあのVRと出会った中で、唯一の生還者だった。
彼女の小隊は偵察訓練からの帰還途中で、奇妙な空間にはまりこみ、あの赤い目を持つ巨大なVRと接触、戦闘を繰り広げたのであった。
6人いた小隊の人間のうち、生還したのはクラリスただ一人。死亡が4人、行方不明が一人だった。
行方不明の一人というのも、ただ被破壊信号が発信されなかったというだけなので、実際は破壊されている可能性が高い。
しかし、いくら生還したとはいえ、クラリスにとってあの経験はとても忘れられるものではない。
毎夜とまではいかなかったが、赤い目のVRに頻繁に夢の中で苦しめられるようになっていた。

光!!

VRのレーザーがクラリスのバイパーIIを灼く。
クラリスの意識に、光があふれる。
瞬間、クラリスは思いっきり目を見開いた。……そして、現実の目も見開かれる。
身を起こせばいつもベッドの上。クラリスの夢は、いつもこのようにして終わっていた。

クラリスの現在の所属はZERO−PLANT、新型VRを秘密裏に開発研究する部署だった。
DN社内部でも、この研究所の存在を知るものは少ない。クラリスもこのような研究所が存在する事は、同僚との話などから推測してはいたが、ここへ配属されることがあるとは思っていなかった。
赤い目を持つ巨大なVRと戦って生還した後、彼女は再び実戦配備を希望したのだが、上層部からの指示によりこの研究所に配属された。
あの正体不明のVRについていろいろ研究するため、このような配属になったのではと思っていたクラリスだったが、特にあのVRについて質問されることも、彼女自身が監視されることもなかった。
クラリスの現在の任務は、新型VR「SRV−14−A」の対戦相手になることと、その戦闘データの採取だった。
新型VRの搭乗員はまだ少女だった。とび色の髪をとても短くした、少女。
「SRV−14−A」はVRとしてはとてもめずらしい外見をしていた。一見して女性をイメージさせるような、曲線的なデザイン。重心が高い位置であるのを補うためか、腰部にはバレリーナのチュチュを模したような広がりがある。頭部には、ポニーテールを高い位置で2つに分けたかのように下がる、板状の細長い機器が接続されている。
パイロットの少女は、以前は「SRV−14−A」の外見と同じように、長い髪を頭の上の高い位置でふたつ分けでまとめていたとクラリスは聞いていた。
彼女は新型機の事をとても気に入っており、整備クルー達も彼女が新型機と同じような髪形をするのを見て、好感を抱いていたという。
けれども、クラリスが配属される前日、突然その長い髪を切り、今のような男の子のように短い髪形にしたのだと、クラリスは聞いた。
ヨリ・クスミというのが彼女の名前だった。
クラリスが初めて顔を合わせたときから、彼女は意味のある視線をぶつけてきた。
クラリスが女性としてはトップクラスの偵察員であり、接近戦での比類ない強さを持っている事に対して受けてきた、いつもの視線とは違う意味が、彼女の視線には込められていた。
ヨリの視線からは、強い恨みと怒りが発されていた。クラリスはヨリと会うのは初めてだったので、なぜこれほどまでに強い意志を持って、自分を見るのかがわからなかった。
彼女の名前からも、配属前後に貰ったデータからも、その視線の理由がクラリスには推測できなかった。
ヨリの方からも、その理由を話してくる事はなかった。ただ、クラリスに視線を強くぶつけていくだけ。
そういう目つきの持ち主なのだと、クラリスは思うことにしたのだが、クラリスとの顔合わせの後、他のクルー達と話している姿は、実ににこやかだった。明るい元気な力にあふれる少女だ。
明るく笑みを浮かべながら、イキイキと新型機を操縦する少女のその姿を見て、嫉みではないようだけれども、どうやら恨みは買っているようだと、クラリスは自覚しないわけにはいかなかった。

「どうですかな、新型機との調子は」
研究所に来て数週間、いまだにヨリは打ち解けてはくれないままだった。
研究所の技術人事部の事務官バシクが通路ですれ違ったとき、クラリスに話しかけた。
ヨリとクラリスの仲は、人数の少ない研究所の中では知らないものはいない。けれども、クラリスが話しかけられた用件は、そのことではなさそうだった。
「地上機動性、空中機動性、申し分のないものです。あのセンターウェポンが、相手の戦意を喪失させるというのも、なかなかのアイデアですけど、実戦ではどうかと。それと、近接戦用のソードの長さが不十分な気がします」
何度もクラリスが報告ずみの、新型機から受ける印象を述べてみた。
「はっきり言いますな、シンクレア少尉。けれども、あなたの実戦で培われた機動のおかげで、大分実戦に近いデータが採集できている。SRVも思っていたよりも早い時期に実戦に投入することができそうです。……ところで、いま、よろしいですか」
通路での会話。大した事は話せないが、話したことを記録されることもない。
「……用件は?」
クラリスは自分のバイパーIIの整備の仕上がり具合を確認しに、格納庫に行く途中だった。
バシクとて、用件がなければ話しかけてくるような人物ではない。彼は通常の事務官がこなしているとされている業務以上に働いている。DN社の社内に独自の情報網を持ち、裏で経営を支配しているとまで噂されたこともあるほどだ。彼自身はただ正しい情報をより分けているだけだと話しているが。
そして、クラリスは以前ある事柄に関しての調査を、バシクに依頼していた。
上着のポケットから、一枚の光ディスクをバシクは取り出した。
「少尉に依頼されていたものです。表面的に提出されている報告書からの情報と、その他。
……なぜ少尉には監視がついていないんでしょうね」
バシクはクラリスにディスクを渡しながら無表情に尋ねた。
「物理的に遮断しておけばいいと思っているだけ。情報的には、結局どこにいても遮断することはできないものでしょ。それは、あなたが一番しっているわね。ありがとう」
「どういたしまして、少尉。今回、お礼はいりません。私に見えないように、ファイルを隠したセキュリティ部で、少し楽しませていただこうと思っているので。では」
バシクは軽く一礼をして歩きだした。
「馴れ合いがないから、より実戦に近いデータが取れます。ヨリとはこのままで」
などと、バシクはクラリスとの去りぎわに言った。
データ採集の面から考えれば、たしかに一理あるのかも知れないと思いつつ、クラリスは納得が行かなかった。
人みしりでもなく、理由もつげず、ただ一方的に恨みに満ちた視線を投げられるというのは。
クラリスは上着のポケットのかくしに光ディスクを入れ、バイパーIIの格納庫に向かった。

バシクからの光ディスクの中には、クラリスの報告書も含まれていた。
クラリスは遭遇したVRについて、他の部署からも何らかの報告がされていないかを調査して貰えるように、バシクに頼んだのであった。
クラリスが所有している情報閲覧資格では、他の部署が出した報告書程度までしか閲覧できない。そのため、ZERO−PLANTに配属されたときに、研究所で一番情報閲覧資格が高いと聞いていたバシクに依頼したのだ。
ところが、バシクはクラリスが思っていたよりも、DN社内部の情報を閲覧する権利を所有していた。バシク自身は、以前はDN社の情報セキュリティ部門にいたためだと言っていたが、それだけでは、手に入れることが不能なはずの文書の内容まで知っていることの説明にはならなかった。
バシクのディスクには、クラリスが問い合わせても教えられなかった情報が多く含まれていた。
その中には一緒にあのVRと戦った行方不明のテムジン機の乗員、サイオンについての情報もあった。
クラリスが回収されたのとほど近い空間、第4基地周辺からサイオンの機体固有信号が発信されていること。しかし、現場にはテムジン機は存在せず、その一部と思われる物質も存在しないこと。そして、信号は
『THE VOLTAGE OF SUPPLIED POWER IS TOO LOW!
CANNOT CONTINUE THE PROCESS ANY MORE.』
と、通常発信されないメッセージを送信しており、段々信号の強さが弱まっていることを報告していた。そして、2週間後くらいにその信号が途絶えるであろう事が推測されている事も。
その他に、クラリス以外の部隊が3小隊分が行方不明になっていることを資料は告げていた。
通常、行方不明になった場合、DN社は総力をあげてVRの回収、あるいは破壊を行なう。
他の企業国家にVRについての細かい情報が流出するのを防ぐためということだった。そして、今までに12小隊程度の人数が行方不明になり、破壊、あるいは回収対象となっている。
数カ月前までは、全ての行方不明のVRの行方ははっきりしていた。
けれども、ここ数カ月の中でVRも乗員も全く行方がわからないケースが出てきたのだ。小隊単位でそれは発生しており、訓練、あるいは実戦のさなかに行方不明となった部隊もあった。機体固有信号も、乗員の生命装置からの信号さえも、突如消失して行方不明となってしまうのだ。
DN社内部ではそういうケースを「喪失」と分類し、依然調査を続けているという。
クラリスの部隊も一応ケースが似通っているので「喪失」の分類に組み入れられていると情報は教えてくれた。
かといって、クラリスの方ではなにか特別に事情を尋ねられることもなく、この研究所でのデータ採集に開け暮れている毎日だった。
「喪失」に分類された人々の個人データもディスクの中には含まれていた。以前の小隊の部下達のデータをクラリスは見ていった。その中にはクラリス自身のデータさえある。
まだVRPS(バーチャロイド・パイロット養成所)を卒業したばかりだった、テムジン機のパイロット、サイオンの個人情報の履歴はごく短いものだった。
ふと、その情報と類似したものを最近見たような気がして、クラリスは自分のカスタムデータバンクの中を検索した。
ほどなく、その情報は表示された。それは、ヨリの個人情報だった。
ヨリはサイオンとVRPSで同期だったのだ。
そして、訓練時には一緒に小隊を組んでいたという。
サイオンの代の記念写真には、たしかにサイオンの隣でヨリが微笑んでいた。

……個人的怨恨と、いうところか……

ヨリの視線の理由がやっとクラリスには推測できた。

データの採集はもう最終段階に入りつつあった。
ヨリは相変らず強い意志をこめた視線でクラリスを見続ける。その理由と思われるものを見つけたクラリスにしてみれば、仕方のないことだと思うしかない。
戦場で殺した兵士の家族が、近くにいるようなものだ。
ヨリの側からなにも言わないということが、多少クラリスには気がかりではあるが。
クラリスとヨリの訓練は、何事もなく続いていた。
今回の採取データは接近戦時。有効視界距離が20m以下の状態で、かつ薄暮のフィールドでのレーダーだけの使用での機器の誤差状態の調査であった。
ZERO−PLANTからは少し離れた、フィールド自体がセンサーとなっている疑似戦場で二人は対峙した。距離計がホワイトからレッドゲージ、そしてホワイトゲージに変わっていく。20mという近々距離まで近づいてはまた離れていくのを繰り返していく。
『…………ザッ………ッ……』
スピーカーから雑音が聞こえた。通常研究所の訓練地域内で、通信に大きな雑音が入ることはない。クラリスは危機感を感じた。
確かに今までも時折、研究所との通信に雑音が入ることがあったが、今のは違う。
「ヨリ」
『…………なんでしょうか、シンクレア少尉』
「通信機器に異常を感じませんか。少なくとも私の方の通信機器には雑音が入る。どうやら、研究所との連絡もとれていないようですが」
『……そのようですね』
ヨリの返答はそっけないものだった。その返事の様子から、クラリスは彼女が意図的にこの事態を作り出したのかも知れないと、一瞬だけ思った。
けれども、機器に詳しくとも双方の通信機器の遠距離通信だけを不能状態にすることは難しい。
それに、クラリスはいつものように、乗りこむ前に自分自身でバイパーIIの整備状態を確認したではないか。
「研究所に戻りましょう、通信機器が故障しているなならば、正確なデータが送られているかどうかも怪しい」
『……いえ、戻りたくありません』
ヨリがこの状態を仕組んだのか?クラリスは再び疑うことになった。
『……シンクレア少尉。私とこのフィールドで本気で手合わせしていただけませんか。誰にも邪魔されず、あなたと戦えることはもうないはずですから。
私は、サイオンがあれほどまでに憧れたあなたと戦ってみたい』
「あなたが意図的にこの状態をつくったの?」
『……いえ。けれども、私にとっては都合がいい!』
距離計がレッドゲージに急激に変化する。
クラリスはためらうことなくジャンプし、ヨリの攻撃をよける。
ハンドビームを中心に、ヨリはクラリスに揺さぶりをかけていく。クラリスの側はヨリに対して、全く攻撃をかけずにいるだけだった。
『本気で、と、お願いしました!』
ヨリから通信が入る。やはり近距離の通信ははっきりと入ってくるようだ。
SRVのソードがバイパーIIの至近で閃く。
互いにノーダメージではあったが、次第に攻撃を避けるだけのクラリスの方が押されてきた。
「仕方ない……か」
SRVに対して、回り込んでソード攻撃を仕掛けようとクラリスが考えたその瞬間、画面にホワイトノイズが走った。

「…………まさか、同じ?」

モニターに赤く「WARNIG!」の文字が表示され、警告音が搭乗空間内に響く。
全てのモニターがホワイトノイズにつつまれた。
あの時と同じだった。
モニターのホワイトノイズが治まると、悪夢の中で何度も見た空間が写しだされた。
空間の中心部にはクリスタルが輝き……ただ、以前とは違うものがあった。クリスタルの下に見覚えのある機体が倒れていた。

サイオンのテムジン機だ。
『少尉!ここは』
「サイオンが行方不明になった空間、クリスタルの下に倒れているの機体がきっと彼だわ。
注意なさい、あいつが来るかもしれない」
『あいつ?』
報告書はトップシークレットだ。サイオンが行方不明になった本当の理由、クラリスが出会ったあのVRの事を、ヨリが知るはずもなかった。
ヨリが問いかけた瞬間、クラリスは悪夢が蘇ったのを見た。
クリスタルを挟んだ向こう側に、黒とオレンジでカラーリングされた巨大なVRが出現する。
「距離を取って!!丁寧に攻撃をあてていくのよ」
『少尉?』
クラリスにはVRの赤い目が光った気がした。
実際は、10方向に向けてレーザーが発射されただけだが。
その時、クラリスはヨリが不用意に巨大VRに近づいて行くのを見た。
「ヨリ!!離れなさい!」
レーザーの1本がヨリを襲う。スピーカーから、搭乗空間内にヨリの悲鳴が響いた。
ヨリの機体の状態をモニターでクラリスは素早く確かめた。
クラリスが乗っているバイパーIIに比べたら、レーザーの一撃を受けたとはいえ、まだまだシールドゲージは残っている。
けれどもやはり次の一撃を受ければもたないだろう。
SRV機特有のハイパー化現象も発現しており、ヨリの機体は金色に輝いていた。
「ハンドビームをメインに歩きながら攻撃しなさい。アイツの攻撃を絶対受けないで」
『…………』
ヨリはただ指示どおりに攻撃を始めるだけだった。
「テムジン機を拾って帰らないと」
クラリスは一人つぶやく。
バルカンをメインにして、そろそろと歩きながらフィールドの中心、クリスタルの下へと移動する。
巨大VRの足は、夢で見ていたものよりもずっと遅く、クラリスは余裕を持って攻撃できた。
ヨリもハンドビームを中心に、巨大VRを牽制しながら回り込んで攻撃を続けている。
どうやって帰るのか、前回はどうしたのか、クラリスはわからないままに攻撃を続ける。
赤い目のVRが、ヨリのSRVにバズーカで攻撃を仕掛けている隙に、クラリスはテムジン機の側に到着した。
不思議とテムジンの機体には破損された跡がなかった。
しかし、呼びかけても通信の返事は返ってこない。
『少尉。サイオンですか』
ヨリから確認の通信が入る。
「多分ね。ヨリ、危険だけれどこちらへ」
この空間に入り込んでから、すでに70秒が経過しているはずだった。
それならば、そろそろ破壊できるはず。あのVRが前回と同程度の装甲であるならばだが。
ヨリのSRVが側に近づいてきた時、クラリスのバイパーIIの左手はテムジンの機を掴んでいた。
「ヨリは右手側から機体を掴んで」
『了解』
「一直線に攻撃を叩き込むわ」
薄暗い闇の向こうで赤い目が光っている。
ゆっくりと巨大なVRが近づいてきた。
もう一撃を叩き込むために。
クラリスたちをこの空間から逃さないために。
「今!」
VRの赤い目が正対した瞬間、クラリスはしゃがみバルカンを、ヨリはしゃがみボウガンを、一直線に叩きこんだ。
瞬間、正面が赤く輝き、その後モニターが白い輝きに包まれ、周囲に光があふれだしていく様子を、モニターが写しだしていた。
激しい衝撃がクラリスを機体ごと揺さぶる。
前回と同様に、唐突に衝撃が治まった。

「………………終わった?」
衝撃のためか、クラリスの搭乗空間内のモニターは沈黙していた。
『…………ッ、ザッ……ッ……』
スピーカーからノイズが聞こえる。前回ではなかったことだ。
『……少尉?……ザッ……ご無事ですか?……ッ……』
雑音が混じってはいるが、かなり明瞭にヨリの声が聞こえた。
「ヨリ、私は平気よ。あなたの状態は?」
『……大丈夫です。モニターは見えますか?』
SRV機のが耐久性にすぐれているということだろうか、クラリスのバイパーIIは、いまのところ、生命維持の回路のほかは、通信機能しか活動していないようだ。
「いいえ、なにかあるの?」
『……いえ……』
ヨリの声がいくらか嬉しそうだと、クラリスは感じた。
ほどなくモニターが回復した。自機の位置を示す3D座標軸のモニターには、何も表示されてはいなかったが、外の様子から月の上空というよりは宇宙に投げ出されているようだということをクラリスは確認した。
そして、ヨリの声が嬉しそうだったその理由をクラリスは知った。
SRVの右手には、しっかりとテムジン機の腕が握られ、クラリスたちは一緒に空中を滑っていたのだった。

嵩田 始 (了) 2000.03061207


MAIL TO : 嵩田 始


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